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- 荒れ地のおっさんの唄 -

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ロイ と ユタニ

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この人たちはいったい何をしているのだろう? 

カーレース場の観客席最上段。そこからの景色を眺めながらそう思った。

観客はまばらにしかいない。よく見えるよう少し体を前のめりにすると、錆びたフレームとプラスチックのベンチがギギィと音をたてる。

ああ、だめだ、よくわからない。

目の前で「995」とペイントされた青いMGが、白いビートルを追い抜いた直後にバランスを崩し、また白いビートルに追い越された。 それに続く車列が、小魚の群れのようにひと塊りになりながら青いMGの後に続き、爆音だけがそこに取り残される。

なんなんだこの大きい音は。しかし、これってなんだっけ? 車、、、だよね?

僕はよく混乱する。 思い出せないって言うか、ふわふわした感じになる時がある。 でもユタニは気にするなと言ってくれる。

彼は、私のことを知っている。 僕が自分の言う事に自信を持てないでいる時、ユタニが確かな答えを与えてくれる。 彼はそういう存在だ。 彼の手は世の中の事を知り尽くしている人のそれのように、表面の凹凸がはっきりして、乾いている。 私の手とはまるで違う。

「これってなんだっけ?」 思い切って聞いてみた。

私の質問を聞いたユタニは、私の方にちょっと顔を向けた後、丁寧に間を開けて
「レースだよ」 「車を競争させて、誰が一番速いかを決めるんだ。」

やはり車か。 これが車なんだ。

「でも、なんで速さを競うの?」 「そもそもどうして人が車を…」
と言いかけて、彼の眼の奥に潜む、深い愛情と同居するなにか寂しいものに気付いて言葉が途切れた。

彼は一呼吸を置いてから。
「ロイ、なにも不思議なことじゃない。だって車を運転するのは楽しいことだろう?」
「楽しい?」

「そう、車を運転することは楽しいじゃないか。自分の思い通りに動かせるから気分がいい。自分がそうしたいと思うことがそうなると人は歓びを感じる生き物なんだよ」。

そうなの?でも車って、、少し考えてみたけどぼんやりとしか思いが浮かばない。
「車の運転が楽しいって、、、僕にはわからないな」

白いビートルが脚元のピットに戻ってきた。 車が止まるとそろいのつなぎを着た人がばっと車に詰め寄り、給油を開始した。 恐ろしくシステマティックに人が動いている。

「ゲームは楽しいだろ?」 「ゲームをやっても世の中には何も生み出さない。でも人は熱狂する。その過程が楽しいから」 「車だって同じゃ。運転するプロセスそのものが楽しんじゃ」

ゲームってあれか、ああ、思い出した。 そうだ昨日やったゲームは楽しかった。 でもゲームと車って何の関係があるんだろう。 想像できない。

だめだ、また混乱してきた。

「気分はどうじゃ?」
「よくわからないけど、最悪ではないよ」
「そうか」
「俺はね、ここに来ると気分が落ち着くんだ」 「お前をここに連れて来れば何かを、、何かを思い出すんじゃと思ってね」
「…」

レースは結局白い白いビートルが逃げ切って幕を閉じた。 表彰台に上がった人たちはユタニと似たような風貌で、観客席にいた彼を含め多くの人は満足げに見えた。 

私は彼と並んで歩きながらゲートに向かった。途中で回転ブランコが見えて、人々は足を宙にまかせていた。ちょうど電飾が灯いた。

「お前には、、、想像もつかないだろうけど、俺が若かった頃、一日じゅう魚を追いかけるやつがいてな、」 「いつもそんなに釣れるもんじゃない」

「ある日そいつはな、その日の終わりになってやっと一匹の魚を釣り上げたんじゃ」 「それは銀色に輝くとても立派な魚だった」 

「ところがそいつはその魚に、「ありがとう」って声をかけた後、また放してしまったんじゃ」

「え…」「それはどういうこと?」

「そのうちわかる」
彼は悲しげな表情でそう答えた。

ゲートをくぐるとやわらかい夕日が二人を照らし、影が後ろに長く伸ていった。よくある早秋の1日のようだ。

急にユタニはよろけて足元にうずくまった。苦しそうな表情を見せて、何かを伝えようとしている。
「ロイ、、、大丈夫だから…」とかすかにつぶやいた後、地面に倒れて動きを失った。

なにがおこっているのだろう?よくわからない。 でも周りの人が騒いでいる。僕は何をすればいいの? 考えても考えても何も出てこない。やがてパニックになって吐き気がやってきた。

様子を見ていたゲートの係員がかけ寄ってきて、「大丈夫ですか?」と彼に声をかける。
そして私に向かって、「ご家族の方?」「どちらから?」と立て続けに質問されたが、私は言葉を発しようとするがなにも出てこない。 やはりよくのみこめないかわりに眼が潤んでくるのがわかる。 係りの人が見かねて救急車を呼だ。

しばらくすると救護隊の人が到着し、係りの人と話をする。いぶかしげにこちらを見ているが、なにがなんだかわからない。

救護隊の人が彼に駆け寄り、光の出る機械を彼の右手の甲に当てた後、こちらに向き直って「あなたは…」と言ったが、何も返せないでいると救護隊の人は「「ちょっと失礼します」といって先ほどの機械を僕の手の甲にかざしたあと、「ん?」と怪訝な表情を見せた。その後、「あ」っと言って機械を首筋に当てて「はー、なるほど」「CRNか、うんうん」。

無線に向かい「こちらSS-5、レトロパークで1-5-9発生、識別個体番号 S4341、経年147、ターミナルdh11に搬送」 「経年0.1369のS4341CRNを所有。指示を願う」と伝えたのち、ちらっとこちらを見た。

「はい」「了解です」
「彼については心配はいりません。我々が搬送します」 「ですからあなたは自分の車で家に帰ってください」 と救護隊の人は私を気遣うように言った。

「自分の…車…」

頭の中を整理しようと立ちすくんでいると、「CRN?!…」 「いや、私も初めてです…」 「こっちで呼んどきましょう…」と救護隊の人とゲートの人が話している言葉が断続的に入ってくる。

僕はユタニの言う事を信じる。ユタニはいつも正しいから。

そうこうしているうちに目の前に白い半透明の立方体がすーっと近づいてきた。

ドアが開いたところに救護隊の人が駆け寄り、さっきの機械を立方体の壁に当てると壁の色が薄いピンク色に変わった。

「どうぞ」 「予定では、、、本日19:15に到着です」 「後程こちらから連絡します」

立方体の中に入る時に首元に光が当たった後、ドアが閉まり、音もなく動き出した。 

内側の壁には目的地の地図が表示され、その隣に表示された予定到着時刻は、救護班の人の言った通り 19:15 Mar 5 2116 と表示されていた。
 
UGV 1957

☆☆☆

今回はちょっと毛色を変えてみました。
”自動運転”のニュースで想像した未来の1シーンです。

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